かわらの小石の図鑑―日本列島の生い立ちを考える千葉 とき子 , 斎藤 靖二
発売日 1996/08
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(初出:ぎょうせい『悠』)
地質学の基本は地質調査である。
かわらに転がっている普通の小石を、豊富な図版で解説する『かわらの小石の図鑑』を手に取ったとき、大学での卒業論文時のフィールドワークのときの出来事を思い出した。
私の卒論のフィールドは岡山県の山の中で、カキや二枚貝の貝殻のかけらが集まってできた石灰岩の分布状況を調べること、そして地質図を作ることが、取りあえずの課題だった。
まず、自分のフィールドにどんな種類の岩石が分布するのかを把握しなければならない。
指導教官と一緒に山を歩きはじめて一日目が終わろうとしたころ。教官はスッとかがんで、1センチほどのごく小さな小石を何個か拾って私に突きだした。
「これがこのフィールドに分布する岩石だから、まずこれを肉眼で区別できるようにしなさい」
私はその瞬間まで、自分の周囲にフィールドにある石がほとんど全て転がっていることに気がつかなかった。実際にはその場所は、ちょうど石が溜まる場所であったのだ。そういったことが、まる一日、同じようにフィールドを歩き、ノートをつけていたものの、私にはまるで見えていなかったのである。
地質図は見るべき目を持っていなければ二次元に広がった岩石分布図にしか見えない。だが実際には地下を含めた三次元構造はもちろん、時間的変動の過程をも織り込んだ4次元的な図なのだ。
現在の地形には地質学的な変動の歴史と、そこからの連続性がある。地質学を学ぶと、現在の地形から数千万年の歴史を推測できるようになる。
なぜその山はそこにあり、谷がそこにあるのかといったことを、あたかもタイムマシンに乗ったかのように、現在の地形を変形させて見ることができるのだ。
そこに、ある石が「ある」というただその事実でさえも大きな意味を持つ。かわらの石は、上流から転がり流れてやってくる。では上流の石はどうしてそこにあるのだろうか。その石の由来はどこにあるのだろう。そうやって思考を繋げていくことで、ただの「かわらの石ころ」から、日本の地史、ひいては地球の歴史を読みとることさえ可能なのだ。
あいにく、私が地質学の持つ本当のパワーを理解したのは、卒業論文も終わりに近づいた頃であった。もうすこし早く「かわらの小石」から色んな情報を読みとるだけの感性と知識、そして何より、奥深い想像力と眼があれば、選ぶ道は違ったかもしれないなあと思うのである。