2004年07月31日

『接続された心 インターネット時代のアイデンティティ』(シェリー・タークル/早川書房)

接続された心―インターネット時代のアイデンティティ
シェリー・タークル , 日暮 雅通

発売日 1998/12
売り上げランキング 174,171



おすすめ平均
学者の研究としての労作

Amazonで詳しく見る4152082046


 人々はコンピュータをどのように捉えてきたのか、どのような影響がフィードバックされてきたのか。そしてオンライン・コミュニティーに生きる人々の心はどのように変わりつつあるのか、ということについての論考である。

 著者の立場は「マシンが何をするかよりも、人々がマシンをどう思うかのほうが重要」というものである。つまりマシンが実際にどう動作し、アルゴリズムがどう動いているかということよりも、マシンの「操作」そのものを我々がどう感じ取り、イメージし、認識するかの方が大事である、というものだ。

 原著が出たのが1995年。訳出があまりに遅すぎた。当時は先鋭的で優れた言説だったのかもしれないが、今となっては過去の記録を読んでいるようだ。

 オンライン・コミュニティーや人工生命の出現などに伴って、様々な境界が揺らいでいる。例えば、自分とは何だろうか? オンラインにいるほうが「生き生きしている」と感じる人がいる。彼・彼女にとっては、接続された状態のほうが本来の自己に近いのではないか? たとえ、オンラインでは現実世界とはまるで違う性格・性別を持っていたとしても、だ。では一体自己とは何だ? いま我々はこのような形而上の疑問に、真正面からぶつかっている。これが著者の主張である。

 確かに、このような悩みにぶつかっている人もいる。心理学者には面白いテーマだろう。だが、一般のネットワーカーは、そんなことはほとんど気にしていない。もっと気軽にネットで遊んでいる。「現実」と「ヴァーチャル・コミュニティー」といった形での分離分割は、そこには見られない。

 我々はもともと、ペルソナを使いわけていたのだ。ネットの出現は、その場所が単に一つ増えたに過ぎなかった。それがこの数年間で証明されてしまったように思える。著者は「多重でありながら一貫性をもったアイデンティティ」を実証したのがホームページであるという。確かにそのとおり、だが現実を振り返ってみたとき、こういう表現はオーバーで滑稽に見える。

 アイデンティティやパーソナリティというものは、もともと非常に動的で多面的で、流動的でありながら強靱なものなのだ。如何にコンピュータや「ヴァーチャル」なものに違和感や恐怖を覚える人がいようと、ほとんどの人は、そんなものは簡単に乗り越えてしまうのである。人のアイデンティティはタフだ。

 だが、今だからこそ、そのあやふやな境界を見つめられるのかもしれない。オンラインとオフラインはさらに溶け合っていく。過去や経緯を辿ることはますます難しくなっていく。だから、ときどき過去を振り返ってみるのも悪くない。コンピュータは今後も喚起的であり続ける。
(初出:「DOS/V マガジン」)
posted by 森山和道 at 02:46| Comment(0) | TrackBack(2) | ネット・コンピュータ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『ビッグフットの謎』(ロバート・マイケル・パイル/三田出版会)

ビッグフットの謎―怪物神話の森を行く
ロバート・マイケル・パイル , 竹内 和世

発売日 
売り上げランキング 




Amazonで詳しく見る4883381412

ビッグフット(雪男)を素材とした森と人間の本。森の将来を想う優れたナチュラリズムの一冊。ビッグフットがひょっこりと現れそうな森の中を歩き、食べ、寝る。そこで著者が考えたのは人間と自然の境界を見つけ出し、区別するのは意味がないということ。未確認生物の影が、怪しくゆらめく一冊。(初出:週刊「SPA!」書籍短評)
posted by 森山和道 at 02:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 生物・バイオ・遺伝子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『月の本』(林完次/角川書店)

月の本―perfect guide to the MOON
林 完次

発売日 2000/07
売り上げランキング 12,334



おすすめ平均
科学と物語の融合
たとえ写真でもリアリティあります。

Amazonで詳しく見る4048836250

宙ノ名前」の天体写真家、今度は「月」を選ぶ。月は妖しい。煌々と照る月も、朧に霞む月も共に美しい。ぽっかりと夜空に浮かんだ光と輪郭が、天空をゆっくりと動く様にしばし酔ってみるのも一興。今宵は月光が作り出す柔らかい影に甘えてみよう。この本は、そんな孤独に酔って頁を繰るのが正解。(初出:週刊「SPA!」書籍短評)
posted by 森山和道 at 02:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 写真集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年07月30日

『The Sacred Heart, An atlas of the body seen through invasive surgery』(マックス・アギレーラ=ヘルウェグ/トレヴィル)

The Sacred Heart: An Atlas of the Body Seen Through Invasive Surgery
Max Aguilera-Hellweg

発売日 1997/10/01
売り上げランキング 509,051




Amazonで詳しく見る0821223771


(この本は山形浩生訳でトレヴィルから日本語版が刊行されていたが今は絶版でアマゾンにもデータがないようなので、洋書のほうにリンクを張ってある)

先に断っておくが、この本は「科学書」ではない。手術室のドキュメントでもない。もちろん要素としては含まれているが、それらに分類される本ではない。「手術」──「手術室」ではない──、それをドロッとしたまま示した写真集である。写真一枚一枚は美しく、黒い背景の中にとけ込ませたレイアウトも素晴らしい。血肉の通った人体模型のように見えるほど即物化した、だがしかし生の人体が、メスやクランプによって内部を見せて暗闇の中に浮かび上がる。これが人間の体である。

「のぞきみたいもの」としての人体。人の体内は隠されている。普通の人は、事故風景などを目撃しない限り、中身がぶちまけられるのを見ることはない。その隠された情景の開陳が公然と認められているのが手術の場である。

絵を描いていたころ、人を解剖したくなった(実際やってしまった)ダヴィンチの気持ちがなんとなく分かった、というのは昔も書いた通りで、私自身、人間の中を見てみたいという気持ちは今でもある。誰でも多かれ少なかれその気持ちはあるのではないか?肉体、ものとしての人体は、一体どのようになっているのだろうか?腱はどのように骨に繋がっているのだろうか。血管はどのように分岐しているのだろうか。脂肪はどのように肉を覆っているのだろうか。

それの開陳が、本来一般人には閉ざされた場である手術室で行われている出来事であるならば、なおさら覗き見根性は煽られる。我々は、知識としてはカラダの中にも肉が詰まっており、腸がうねくり心臓が脈打ちしていることを知っている。だが、実際に「中身」を見たことがある人はそんなにはいない。リアルな実感として、骨があり、内臓があり、血管があり、神経があることを「知っている」人は結局医者たちだけなのだ。「背中の空洞に脊椎があると頭でわかってはいたが、それを実際に見るとなると、まったく話が違う」のである。

著者は、脊椎を見てこう綴っている。

「わたしは自分が、これまでに見たもっとも親密で、もっともか弱く、もっとも非暴力的なものとともにあるのを感じた。脊椎はこれまで光を浴びたことはなく、浴びるはずもなく、しかしこの瞬間には光につつまれているのだ。最初の衝動は、唾をはくことだったと告白せねばならない。なんとか冒涜したいという衝動。自分のレベルまで引きずりおろしたい。もちろんそんなことはしなかったが、しかし、非常に貴重で、驚異的で、強力で、純粋で、耐え難い強烈さを持つモノと共にある感覚はぬぐえなかった」


私は、これと似た感情を脳を初めて目の当たりにした時に抱いた。「これが人間なのか」と思うと同時に、「いったい『これ』は何なのだろうか」と思った。そこには、人間の尊厳なるものも、魂なるものもなかった。人を切り刻んでも魂は見あたらない。が、どこかにあるのではないか。より「内部」を覗けば、魂に近づけるのではないか。そんな気持ちがどこかにある。

本書の写真の中にも魂は写っていない。だが、思わず目を奪われてしまう何かが「そこ」には、いや我々の体内には、あるのだ。

それぞれの被写体は、それぞれの歴史を持って手術台の上に現れる。写真家はそれを撮る。切除された病巣さえも、それぞれの人体の一部である。切り取られたあとも自らの由来を語り、見るものに歴史を語る。ただのモノでありながら、ただのモノではない。まるで「人の残像」が、そこに残って焼き付いているかのように、何かを語り続けている。

本書の写真群を見て、あなたは何を感じるだろうか。著者は、肉体や我々自身、そして死を考えるためにテキストとなることをねらったという。

著者は、半ば自嘲、半ば本気(だろう)で、このように語っている。

写真家として、わたしはごくわずかな人しか興味を持たないような、あることさえ認めたがらないようなものを見てきた。わたしがもっとも好きなのは、暗い面なのだ。


(初出:
http://www.moriyama.com/sciencebook.97.11.htm#sci.97.11.12


グロさで評判の手術写真集。でも覗き見根性だけの写真集ではない。閉ざされたものの中を開いて見てみたい、これは誰にでもある願望だろう。じゃあ、我々は何を見たいのか?覗き見たいものは「魂」であると写真家はいう。物体としての肉体と生、死を突きつけ、魂のありかを考えさせてしまう写真集。(初出:SPA!書籍短評)
posted by 森山和道 at 04:42| Comment(1) | TrackBack(0) | 写真集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『ぐうたらテクノロジー―熱烈!明治・大正「特許」事情』(近藤雅樹/河出書房新社)

ぐうたらテクノロジー―熱烈!明治・大正「特許」事情
近藤 雅樹

発売日 1997/12
売り上げランキング 693,634




Amazonで詳しく見る4309223176

思わず脱力する発明品の数々が収録されたエッセイ。無意味に歯車がついていたり、やたら回転したりと当時の「機械」なるものへの捉え方が透けて見えて面白い。しかしまあ作った方は一生懸命、はたから見るとなんだこりゃ、という事情は今も昔も変わらないのだ。「脱靴具」ってどんなものか分かります? (初出:週刊「SPA!」書籍短評)
posted by 森山和道 at 04:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画・特撮・模型・オタク文化 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年07月29日

『モハメド・アリ聖者』(ハワード・ビンガム/リトル・モア)

モハメド・アリ聖者
ハワード・ビンガム , 岩本 正恵

発売日 1997/11
売り上げランキング 185,741




Amazonで詳しく見る4947648600

若い頃の激しさと苦悩、現在の穏やかさ。これらをフィルムに焼き付けた、静謐感ある写真集。片手を激しく震わせながら、聖火を持って現れたアリの姿は記憶に新しい。脳裏をよぎった想い出は、キャシアス・クレイの名を持っていた頃からの記憶であったろうか。しっかりとした激しさを秘めた瞳が印象深い。(初出:週刊「SPA!」書籍短評)
posted by 森山和道 at 05:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 写真集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『犯罪に向かう脳』(アン・モア, デビッド・ジェセル/原書房)



犯罪に向かう脳―人を犯罪にかきたてるもの
アン・モア, デビッド・ジェセル, 藤井 留美



おすすめ平均
知恵熱が……

Amazonで詳しく見る4562030208

犯罪の原因は多様だが、一因は「生まれつき」であるという。著者らは様々なデータを挙げ、社会的経済的理由と同様、犯罪には「生物学的な理由」があるとする。脳の「故障」が犯罪発生の一因であるならば、我々は何らかの治療を施せるような社会システムを考慮しなければならない。考慮の1材料として。(週刊「SPA!」書籍短評)
posted by 森山和道 at 05:10| Comment(0) | TrackBack(1) | 生物・バイオ・遺伝子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『悪魔メムノック』(アン・ライス/扶桑社)

悪魔メムノック―ヴァンパイア・クロニクルズ (上)
アン・ライス , 柿沼 瑛子

発売日 1997/11
売り上げランキング 52,018



おすすめ平均
宗教的な小説
ニー・ハオ!(怒)

Amazonで詳しく見る4594023797

映画にもなった「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」から始まる「ヴァンパイアクロニクル」シリーズ一応の完結巻。主人公レスタトの「やんちゃ坊主」ぶりが人気のこのシリーズ、本巻ではついに悪魔や神に出会う。何でもありの無茶苦茶な展開でも、ぐいぐい強引に読ませてしまう著者の筆はさすが。(初出:週刊「SPA!」書籍短評)
posted by 森山和道 at 05:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 文芸・小説・エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『星の遠さ寿命の長さ』(松尾 スズキ/太田出版)

星の遠さ寿命の長さ―「大人計画」全仕事
松尾 スズキ

発売日 1997/12
売り上げランキング 57,980



おすすめ平均
歪んだ世界の歩き方
ファンなら読むべし!

Amazonで詳しく見る4872333578


「生きづらい」と著者はいう。だから演劇をするのだろうか? タブーを芝居で取り上げる「大人計画」松尾の履歴書。演劇をやっている人はどこか壊れている。どこかが過剰、あるいは欠如している。救いようのない不幸にこだわっているという編者もその一人だろう。現実世界では過剰なものも、舞台では枠組みの方を変えてしまって欺瞞や不条理や毒を吐き出すことができる。やりたいからやってるんだよ、と笑われそうだが。(初出:週刊『SPA!』書籍短評)
posted by 森山和道 at 05:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 文芸・小説・エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年07月27日

『趣都の誕生』(森川嘉一郎/幻冬舎)

趣都の誕生 萌える都市アキハバラ
森川 嘉一郎

発売日 2003/02
売り上げランキング 13,494



おすすめ平均
「趣都」というネーミングもよい
アキハバラの謎は解かれた
ううう、悔しい。

Amazonで詳しく見る4344002873


 秋葉原はいま、オタクの欲望剥き出しの街へと変貌している。

 町中のビルにはもちろん、駅のような公共空間にまでアニメ絵の広告があふれている。ラジオ店の類も健在ではあるが、明らかに主力は家電でもパソコンでもない。

 この現象を「趣味が都市を変える力を持ち始めた」と読み解く本書は、秋葉原とオタク、そして街の変容を論じた一冊である。著者は建築意匠論を専門とする研究者だ。

 著者は海洋堂専務などへのインタビューを通し、95〜96年のエヴァ・バブルがオタク系ショップ進出の大きな後押しとなり、秋葉原が変わる契機となったという。それは池袋や渋谷のような大資本による街改造とは根本的に違うもので、秋葉原は「パソコンに対する愛好を結節点」としてオタクたちに見いだされた「趣都」となり、街全体がオタクの個室が都市空間へと拡張したような場所へと変わっていったというのだ。

 エッセンスは第一章だ。このあとはオタク趣味の構造、未来観の変遷がもたらした科学技術少年への影響などが語られるのだが、定量的なデータが引用されているわけでもなく(研究者の著作には単なる「お話」ではなく裏付けを期待したい)、特に説得力もない。話が秋葉原から離れてしまっていることもあり、あまり面白くない。

 第一章にしても、たとえば吉祥寺や下北沢はどうなのか、あるいは古いところでいえば、銀座のような街はどうなのだろうか、と問いたくなる。銀座でも、歩く人の趣味が街に露出しているからこそブランド店が並ぶのではないのか。それは秋葉原が獲得した個性と何が違うのか。また、秋葉原がパソコンの街へと変貌した80年代に大きく変わったのは渋谷も同じだ。公園通りは確かに大資本が意図したものだろう。だが、センター街は自然発生的に若者が集まる場所として誕生したのではないか。それと秋葉原との違いは何か。

 秋葉原が異色の街であること、今もなお変貌しつつあることは明らかだ。なぜ秋葉原はこうなのか? それを考えることは秋葉原を鏡として文化や都市、社会を考えることだ。本書は秋葉原を考える上で重要な叩き台である。秋葉原をめぐる今後の議論は、この上に積み上げられていく。著者にも、さらなる深い論考を期待する。

(初出:「月刊アスキー」)
posted by 森山和道 at 23:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画・特撮・模型・オタク文化 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『秒速10センチの越冬』(岡崎祥久/講談社)

秒速10センチの越冬
岡崎 祥久

発売日 1997/11
売り上げランキング 1,189,617




Amazonで詳しく見る406208967X

会社をやめた「おれ」。たどり着いたバイトは、ベルトで運ばれてくる本を仕分け続ける単純作業。単調な日常にぶつくさ言いながらも働き続ける「おれ」は、やがて「絵を描きたい」と思い始める。ぶっきらぼうで飾らない、日記のような一人称。何をしたいのか、本当になりたいものは何なのか。迷える人に。(初出:週刊『SPA!』書籍短評)

 いわば現代のプロレタリアート文学。読んだのが会社をやめたばかりの頃だったせいもあり、主人公の姿が自分に重なり、いまだに忘れられない小説。
posted by 森山和道 at 23:11| Comment(0) | TrackBack(1) | 文芸・小説・エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『夢の世界』(D.フォンタナ/河出書房新社)

夢の世界
D.フォンタナ , 鏡 リュウジ

発売日 1997/12
売り上げランキング 206,820




Amazonで詳しく見る4309706428

夢を画で表現し、解釈を試みる。夢の図説であると同時にケーススタディでもある本書。ここで引き合いに出されているユングやフロイトによる夢の解釈は今日の心理学では完全に否定されているが、それでも興味を引くものであることには変わりない。ふむ、と読んでしまうのは深読みしたがる人間の性かも。(初出:週刊「SPA!」書籍短評欄)
posted by 森山和道 at 22:55| Comment(1) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『インサイドインテル』(ティム・ジャクソン/翔泳社)

インサイドインテル (上)
ティム・ジャクソン, 渡辺 了介, 弓削 徹

発売日 1997/12
売り上げランキング 8,159



おすすめ平均
上巻とぼぼ同じ感想
インテル初期の興味深い記述満載

Amazonで詳しく見る488135566X

秘密主義とコワモテで知られる半導体製造メーカー・インテル。外敵は踏みつぶして蹴散らし、従業員には信賞必罰、鉄の掟。おなじみのキャッチを逆さまにした本書は、邁進する企業の実像を外部関係者への綿密な取材で構成したドキュメント。特に迫力を増すのは日本との対決も含む下巻。企業関係者、必読。(初出:週刊『SPA!』書籍短評欄)
posted by 森山和道 at 22:49| Comment(0) | TrackBack(0) | ビジネス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『IQ遺伝子 知性は遺伝するか』(石浦章一/丸善)

IQ遺伝子―知性は遺伝するか
石浦 章一

発売日 2002/03
売り上げランキング 65,851



おすすめ平均

Amazonで詳しく見る462104995X

 多種多様な個人差がある人間の「心」−−知性。では、個人差と呼ばれているものの実体は何か? 本書は人間の知性に対して遺伝子の観点から踏み込み、意欲や躁鬱、アルコール耐性、脳の可塑性など現時点で何が分かっているのかを一般読者向けに解説にした一冊。そもそも知性を遺伝子などで計られてたまるかという人もいるだろうが、たとえば尿酸値の高さとIQの高さの間に相関がある、長寿に関連する遺伝子は知性とも深い関係があるといったことが事実として分かってきたのである。ただし「相関」があるからといって「因果」が解明されているわけでもない。一見わかりやすいデータは本当だろうかと疑ってかかることが必要だ。だが遺伝子変異と知性の間との関係が判明しつつあることも確かなのだ。この分野から目を離すわけにはいかない。(初出:メタローグ『recoreco』)
posted by 森山和道 at 22:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 生物・バイオ・遺伝子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『ビューティフル・マインド 天才数学者の絶望と奇跡』(シルヴィア・ナサー /新潮社)

ビューティフル・マインド 天才数学者の絶望と奇跡
シルヴィア ナサー , 塩川 優

発売日 2002/03/15
売り上げランキング 40,683



おすすめ平均
ノーベル経済学賞受賞の数学者の心の軌跡(原書について)
映画を見た人にはぜひこの本も勧めたい
人間たちの姿を

Amazonで詳しく見る4105415018

 精神分裂病に苦しみながら「非協力ゲーム理論」における功績で1994年にノーベル経済学賞を受賞したジョン・ナッシュJr.の半生を描いた伝記。2002年のアカデミー作品賞ほか4部門を受賞した同名映画の原作だが「感動作」として仕立て上げられた映画とは全くと言っていいほど違う現実が描かれている。実際の若い頃のナッシュは頭の良さを鼻にかけ、人を人とも思わない典型的な嫌な奴だったようだし、精神分裂病発症後は、世界市民になりたいと願ってヨーロッパを放浪したりする。またホモセクシャルでもあったとしている点は当人たちとの論議も呼んでいるようだ。原作と映画の違いを比べてみるのも一興だろう。一冊の本としてはナッシュという人物に目を向けさせた功績はあるものの、数学者としての思考や業績に関する描写が少ないところが残念。(初出:メタローグ『recoreco』)
posted by 森山和道 at 05:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 伝記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年07月26日

『かわらの小石の図鑑 日本列島の生い立ちを考える』(千葉とき子・斎藤靖二/東海大学出版会)

かわらの小石の図鑑―日本列島の生い立ちを考える
千葉 とき子 , 斎藤 靖二

発売日 1996/08
売り上げランキング 2,694



おすすめ平均
いいなあ、これ

Amazonで詳しく見る4486013662


(初出:ぎょうせい『悠』)

 地質学の基本は地質調査である。

 かわらに転がっている普通の小石を、豊富な図版で解説する『かわらの小石の図鑑』を手に取ったとき、大学での卒業論文時のフィールドワークのときの出来事を思い出した。

 私の卒論のフィールドは岡山県の山の中で、カキや二枚貝の貝殻のかけらが集まってできた石灰岩の分布状況を調べること、そして地質図を作ることが、取りあえずの課題だった。

 まず、自分のフィールドにどんな種類の岩石が分布するのかを把握しなければならない。

 指導教官と一緒に山を歩きはじめて一日目が終わろうとしたころ。教官はスッとかがんで、1センチほどのごく小さな小石を何個か拾って私に突きだした。

「これがこのフィールドに分布する岩石だから、まずこれを肉眼で区別できるようにしなさい」

 私はその瞬間まで、自分の周囲にフィールドにある石がほとんど全て転がっていることに気がつかなかった。実際にはその場所は、ちょうど石が溜まる場所であったのだ。そういったことが、まる一日、同じようにフィールドを歩き、ノートをつけていたものの、私にはまるで見えていなかったのである。

 地質図は見るべき目を持っていなければ二次元に広がった岩石分布図にしか見えない。だが実際には地下を含めた三次元構造はもちろん、時間的変動の過程をも織り込んだ4次元的な図なのだ。

 現在の地形には地質学的な変動の歴史と、そこからの連続性がある。地質学を学ぶと、現在の地形から数千万年の歴史を推測できるようになる。

 なぜその山はそこにあり、谷がそこにあるのかといったことを、あたかもタイムマシンに乗ったかのように、現在の地形を変形させて見ることができるのだ。

 そこに、ある石が「ある」というただその事実でさえも大きな意味を持つ。かわらの石は、上流から転がり流れてやってくる。では上流の石はどうしてそこにあるのだろうか。その石の由来はどこにあるのだろう。そうやって思考を繋げていくことで、ただの「かわらの石ころ」から、日本の地史、ひいては地球の歴史を読みとることさえ可能なのだ。

 あいにく、私が地質学の持つ本当のパワーを理解したのは、卒業論文も終わりに近づいた頃であった。もうすこし早く「かわらの小石」から色んな情報を読みとるだけの感性と知識、そして何より、奥深い想像力と眼があれば、選ぶ道は違ったかもしれないなあと思うのである。
posted by 森山和道 at 03:23| Comment(0) | TrackBack(1) | 地球科学・地質学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年07月25日

『ハルモニア』(篠田節子/マガジンハウス)

ハルモニア
篠田 節子

発売日 2001/02
売り上げランキング 53,102



おすすめ平均
ドラマの原作を
この本を読んで音楽の聴き方が変わった!
サヴァン症候群の女性が奏でる調べ

Amazonで詳しく見る416760504X

通常の感情を持たず認知世界もまるで異なる一方、彼女は異能の音楽才能を持った天才だった。現実にある症例にSF的設定を付加した著者独自の世界が繊細かつ激しく紡がれる。冷たく感じるほど登場人物達を突き放し、常人と異なる世界に生きる人をそのまま正面から描き出してぶつける手腕はさすが。(初出『週刊SPA!』書籍短評)
posted by 森山和道 at 04:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 文芸・小説・エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『新ニッポン百景'95〜'97』(矢作俊彦/小学館)

新ニッポン百景―衣食足りても知り得ぬ〈礼節〉への道標として (’95〜’97)
矢作 俊彦

発売日 1997/12
売り上げランキング 112,562



おすすめ平均
ニッポン(≠日本)百景。

Amazonで詳しく見る4093795738

この国の風景を作家が切り取り、その「貧しさ」に怒り、あきれ、そして時には安堵する。たしかに、人が作り出した景色には時代と人の有様が現れている。しかし風景を見る者もまた人。たとえ人工であっても景色は見る者の思い次第である。心に去来する思いは自らの心を反映していることを肝に銘じたい。(初出『週刊SPA!』書籍短評)
posted by 森山和道 at 04:16| Comment(2) | TrackBack(2) | ルポ・ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ガメラ監督日記(金子修介/小学館)

ガメラ監督日記
金子 修介

発売日 1997/12
売り上げランキング 216,514



おすすめ平均
金子監督

Amazonで詳しく見る4093872422

「ガメラって、亀みたいなアレ?」と言われながら思いながら、如何に自分が考え憧れた怪獣映画に仕立てていったかを綴ったエッセイ。著者はこれまでの過去をガメラに集中させつつ振り返っていく。その作業ができるほど思い入れある映画であり仕事であったということだ。もう一度映画を見たくなる1冊。(初出『週刊SPA!』書籍短評)
posted by 森山和道 at 04:10| Comment(0) | TrackBack(2) | 映画・特撮・模型・オタク文化 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年07月24日

アニマルテクノロジー(佐藤英明/東京大学出版会)

アニマルテクノロジー
佐藤 英明

発売日 2003/11
売り上げランキング 173,651



おすすめ平均
素人でも読みやすい
無性に鯨カツが食べたくなった

Amazonで詳しく見る4130633228

(初出:『中央公論』2004年2月号)

 畜産学や獣医学が生み出した技術を著者は『アニマルテクノロジー』と総称する。この本は家畜に関する技術の現在と周辺状況、行く末を、研究者が執筆したものだ。

 古代エジプトの壁画には、家畜の分娩を補助している絵が残っているという。現在のアニマルテクノロジーは大きく進歩した。例えば、ウシは交尾することなく生産されている。種ウシから取った精子を分配・冷凍して人工授精させるからである。だが卵子を大量に得ることは困難だった。ところが技術の進歩により、屠殺された雌ウシの体から卵巣を取り出し、その中にある卵子を成熟させることが可能になっている。卵子を成熟させ、人工授精させたあと、ウシの体内に入れ、子供を得る。

 それだけではない。卵子を余分に排卵させる、すなわち過排卵させる技術も驚くべき進展を見せている。通常のウシでは限られた卵胞しか成熟せず、ごく少数の卵子しか排卵しない。その理由は、血管網の発達にある。そこで著者らは血管内皮細胞増殖因子を使って卵巣の血管網を増加させ、強制的に多くの卵胞を成熟させることに成功した。これによって、多くの卵子が排卵されるようになるかもしれないという。だが、技術者たちの思惑はさらに先にある。卵巣には10万〜20万の卵子がある。卵子を直接取り出して培養して発育させられたら……。遠くない将来、大量の卵子を取り出して培養し、そこから成体が生み出される日がやってくるだろう。

 家畜を増殖させる技術とヒトの不妊治療の技術は、本質的には大きな違いはない。双方の技術が応用可能であり、実際に応用されている。もちろん、家畜に使われる技術が直ちにヒトに応用可能というわけではない。だが倫理そのほかで制約されているヒトを対象とした研究に比べ、家畜を対象にした研究では「家畜だから」という理由で、様々な技術が応用されている。中には有用産物を作るトランスジェニック動物や、ブタからヒトへの臓器移植のように、直接人間に関わるものもあるが、それよりもまず、多くの家畜は人間の食料である。

 人間という存在が、自分たちの食料を生み出すためにどんなことをしてきたのか、そして今、どんなことをしているのか、これからどこへ行こうとしているのか、知っておくべきだろう。殺生する生き物としての人間の自己像を考えるためにも。
posted by 森山和道 at 20:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 生物・バイオ・遺伝子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする